顧問と音楽監督の ぶっちゃけマンドリントーク

〜キーワードは模索?〜 (プログラム曲目解説に替えて)

 

 

顧問いよいよプリマヴェーラの2 回目の演奏会が開催されることになりましたが、前回の演奏会と違うところはどこでしょう?

監督一番大きな違いは、指揮者がいない、ということですね。前回は私が振りましたが、今回は指揮なしで行います。

顧問指揮者がいないと、みんな不安なのでは?

監督まあ色々理由はあるのですが、まずは、15 人〜 20 人くらいのアンサンブルは指揮者がいなくても問題ないということです。かつて、弘前大学クラシックギター部で、40 人が指揮無しで全くずれないでやったこともあります。それから、指揮を見るテクニックというのも必要なのですが、それを持ち合わせている人が少なく、指揮見て、楽譜見て、指も見てというのは、視覚的なものに神経を奪われるんですね。だからそれを聴覚神経に回したい、というところです。見て合わせる、ということに気を使わないで、自分の音、周りの音を聞いて合わせていく。メンバー一人一人が音に集中することで、自主性が生まれてくるという期待もあって決めました。今までも、破綻することなくそれでやってこられた、ということもあります。

顧問もちろん、舞台に上がるまでの音楽づくりへの関与は大きいわけで、そこまでは指揮者(音楽監督)が音楽づくりを統一してやって、そのあと実演する時にどうするか、という問題ですね。

監督そうです。自主的にとは言っても、メンバー間で作品の共通理解が必要なので、かじ取りはしています。ドレミを正確に弾いて、縦の線を合わせて、楽譜に書いてある記号通りに弾くことが音楽ではありませんからね。最近は練習の時に指揮しても、見てない人が多くなりました(笑)。1 曲に時間をかけて練習しているので大丈夫です。

顧問それにしても、前回の演奏会が2008 年ですから、かなり間があきましたが、この9 年間なにしてたんですか?って思われますよね。

監督なにもしていなかったわけではなくて、途中で音楽ネットワークや、街角ミニコンサートなど、ちょっとした発表はしていたので、今回のコンサートにつなぐことができたわけです。まあ、1 1曲に時間がかかったのは事実です。皆さん簡単に弾いているオリジナル曲でも、やってみたらどれも難しくて時間がかかるんですよね。模索です。模索している時間が長いんですよ。曲の選択も模索からです。

顧問そうでしたね。研究会改め、模索会にしますか(笑)。

 

顧問プログラムの1 曲目はG.F. ヘンデル(1685 1759)の水上の音楽第3 組曲ですが、この曲を選んだ理由は?

監督:前回バッハを何曲かやったので、今回はヘンデルをやってみようかな、という出来心(笑)と、私たちのアンサンブルでできそうな曲、ということで選びました。

顧問曲のタイトルで、無題、というのがありますが、これはなぜですか?

監督楽譜がきちんと残っていないんです。パート譜の断片的なものが残っていて、それを後の人が修復するような形でできています。

顧問実際にはどういう形で演奏されたかということも、よくわかっていないのですか?

監督そうです。パートも、残っているパート譜がはたしてそろっているのか、本当はもっとあったのか、そのあたりも含めてよくわかっていないんです。こういう機会音楽というのは、パーティーとか、その規模や時期によっても色々と変えられたりするみたいだから。そんな事情があってか、何かしらあってもいいタイトルも記されていないのです。

顧問じゃあ、CD を出す時は何もないと都合が悪いから、便宜上何かつけてるということですね。

監督そうです。楽譜も( ) 付きのものは、編集した人がつけてます。

監督1 曲目 無題 4 分の3 拍子で、メヌエットと判断して演奏する人たちもいますが、今回私たちはエールと呼んで演奏することにしました。本来はタイトルはありません。エールというのは、特定のステップの決まったダンス曲(ガヴォット、アルマンド、メヌエットなど)には属さない、諸々のダンス曲を総称するんです。そういう意味でエールです。ヴェルサイユでたくさんエールが書かれているのはそういう踊りの曲なんです。エール・ド・クール(宮廷のアリア)とは別です。テンポはメヌエットより遅く設定しています。

顧問英語だったらエアー、イタリア語はアリアですね。

監督2 曲目はリゴードン。リゴードンはフランスのプロヴァンス地方で生まれた速いダンス曲です。

3 曲目はメヌエット。4曲目は、今回はイギリス風にカントリーダンスとします。2 拍子系の曲。イギリス起源で、イギリスからヴェルサイユ宮殿に入って、コントルダンスというふうに呼ばれます。同じコントルダンスでも、その起源からいくものと、メヌエットが変化して、コントルダンスを経て、スケルツォになる過程のものもあります。今回私たちが演奏する曲は、HF・レトリッヒの楽譜を使ってアレンジしました。

顧問一般的なマンドリン合奏でバロックの演奏って、あまり聞かないけど、けっこうできるんですね。

監督A. ヴィヴァルディがマンドリン協奏曲を作曲しているということは、よく知られていますが、バロック時代にマンドリンが使われていた楽器だということをふまえて、ほかのバロック作品を、編曲という手段を通してレパートリーにしたいと思っています。前回の演奏会で、良い感触を得ましたので。

顧問:マンドリン合奏で、バロックを演奏する時に気を付けることはありますか?

監督:まずアーティキュレーション。バロック音楽は歌うという要素はもちろんあるんですけど、当時の歌うというのは、今のロマン派を経験してしまった私たちにとっての歌う感覚とは少し離れていて、語る音楽と言われます。一音一音をニュアンス豊かに演奏していく。そういう演奏法が求められるので、マンドリンで演奏する場合には、多彩なピッキングと、この時代には実際使われていなかったでしょうけど、トレモロをまぜて作品のニュアンスを生かしたい、というのが目標です。多彩なピッキングというのがどうしても必要になるので、そのへん心がけて練習しました。

顧問:多彩なピッキングというのは、ダウンとアップが均一になるのを極力避ける、ということですか?

監督まあ簡単に言うとそういうことですが・・ピックを上手に使って、音楽に合った音色を探すんです。角度や圧力、リリースの速度等々。そのための技術というのも必要なんですが、それを語ると根本的な奏法にも触れることになり、本1 冊分くらいになってしまいますので、詳しく聞きたい方は直接連絡ください(笑)。

バロックにかぎりませんけど、音楽ファーストなんです。作品ファースト。作品からどういうものが要求されてくるのか、それをマンドリンとギターでやる場合、どういう方法で音を出したら一番うまくいくか、そこを私たちは模索しているわけです。練習の時に実験が多いのも確かだし。

顧問次のE. メッツァカーポという人は、生没年が1880 年(?)〜 1942 年って書いてありますね。マンドリン界では有名な人なんですか?そういえば前回の演奏会でも2 曲取り上げましたよね。

監督メッツァカーポに関しては、資料があまりなくてよくわからないんです。生没年も1890(?)〜というのもあれば、英語版ウィキペディアには1832 1898 とあり、正確なところがちょっと不明です。ナポリ生まれのマンドリニストで作曲家。後にパリに移住して、一時イギリスでも活躍したそうです。前回評判が良かったので、今回も取り上げました。マンドリン合奏ではよく演奏される作曲家のようです。

アンダンテとポロネーズは、ソロ用とアンサンブル用と2 つのヴァージョンがあるのですが、今回は、ソロとマンドリンアンサンブルという新しい形で演奏します。コンチェルトではないけど、室内オーケストラバックの小品という位置づけです。

顧問なるほど!新機軸ですね。

監督ファースト・マンドリンの楽譜を見ると、すごく奏法上の指示も細かくて、ヴァイオリニストが後期ロマン派にかけて工夫していった技法をマンドリンでもやってみたいな、というメッツァカーポの意気込みが感じられます。それは合奏でやるよりもソロの方が生きるんじゃないか、と思ってソロヴァージョン(Solo Version) とアンサンブルヴァージョン(Ensemble Version) を合体!しました。

顧問SVEV ですね!(笑)。

監督ただ、この曲、不思議なのは、初版を見ても、アンダンテとポロネーズというタイトルなのに、楽譜のどこを見てもアンダンテがないんですよ。普通は、序奏があればそれがアンダンテで、途中からポロネーズ、と思うんですけど、最初はラルゴなんです。ポロネーズが出てくる前にアンダンテがないとこういうタイトルにはならないと思うんです。謎です。だれか事情通の人、教えてください!

顧問ポロネーズというのもダンス曲なんですよね。

監督そうです。ポロネーズというのは、フランス語でポーランド風の意味。マズルカと並んでポーランド起源のダンス、またはそのための形式です。ゆっくりめのダンス曲です。典型的なポロネーズは荘重な感じでゆったりした4 分の3 拍子。この曲、速く弾かれる演奏が多いのですが、皆さん、ちょっと速く弾きすぎていると思います。今回はポロネーズのリズムを意識して、少し遅めにテンポ設定します。テンポが速くなると、メッツァカーポが楽譜の中に記しているニュアンスを実現するのが難しくなります。響きを生かすには、立ち上がりの微妙な時間を考慮することが大切ですが、速いとそれを生かしきれないと思います。ある程度の時間が必要になります。

顧問さっき、マンドリンに当時のロマン派の弦楽器、ヴァイオリンを意識しているといわれましたが、H. ヴィエニャフスキー(1835 1880)とかの影響があるんでしょうかね?

監督あるかもしれませんね。作曲家はその当時流行っていた音楽や、印象に残った音楽の影響を受けて作曲することがあると言います。もしかしたらパリでヴィエニャフスキーのポロネーズを聞いて、こういうスタイルの曲を書いてみようと思ったとしても、不思議ではないでしょう。まあこれは想像ですが。

メッツァカーポについては研究が待たれるところですが、この曲は、後期ロマン派の味わいのある、マンドリンオリジナル曲としては非常にすぐれたものだと思います。ただ、オリジナル譜は、ギターがご多分に漏れず酷かったので、ピアノ伴奏版を基にギターパートをアレンジしました。スコアをピアノ譜と一緒に見ていくと、後期ロマン派のスタイルで書かれた、民族的な香り漂う、大変ロマンティックな作品だということがわかります。マンドリンのためのショーピースとみなし、技巧だけを前面に出すようなアプローチでは、曲の魅力は失われてしまいます。フィナーレも、速すぎないように注意して演奏しようと思っています。

顧問次のポンパドール夫人のガヴォットもメッツァカーポですね。

監督たまたま、「奏でる!マンドリン」というマンドリンの専門雑誌に楽譜が載っていて、4 パートの編成だったので選びました。解説を見ると、ポンパドール夫人というのは、ルイ15 世の愛人、ということですが、本当に彼女のことなんですか?(笑)軽妙なサロンミュージックです。メッツァカーポもサロンが活動拠点だったのでしょう。

 

顧問アンドウマユコさんのさくら草のセレナーデはどういう経緯で選んだんですか? この人は初めてですよね。

監督これも「奏でる!マンドリン」に載っていたのと、現在活躍している作曲家の曲を演奏してみたかったということで選んでみました。

顧問現代曲ですよね。まあ、そんなにバリバリの現代曲って感じはしませんけど、この曲を演奏するうえでのポイントというか、特徴みたいなものはあるんですか?

監督出だしのところは、メロディーととらえにくいような、音列の循環でできています。8 分の6拍子と8 分の5 拍子がセットになって循環するというのが特徴です。5 拍子というのは、中央ヨーロッパの伝統からすると、彼らには理解しづらいらしく、3 2 2 3 で考えるんです。5 でそのままとらえられる人たちというのは、ヨーロッパだと、東の旧ユーゴスラビアのあたり。民族的なダンスもあって、5 拍子でノリノリになれるんです。7 でもなれます。日本人は、俳句が五七五ですから、5 7 も割となじめるので、そういう意味でオリエンタルな要素を感じます。

この曲、カルテットで書かれていたので私たちにできると思ったら、ギターではなくてセロが入ってのカルテットでした。楽譜を取り寄せてギターパートも入れました。コントラバスの部分は、必要な音はギターに回して今回は演奏します。汎アジア的な美しさを感じさせる極めて繊細な音の出し方を要求される作品です。

 

顧問J.S. バッハ(1685 1750)のメヌエット。これは管弦楽組曲からですね。これを選んだ理由は?

監督前回は管弦楽組曲の1 番から選んだので、今回は2 番から選んでみました。有名な曲です。

前回と同じく、トレモロとピッキングをまぜて、バッハの残しているアーティキュレーションを、マンドリンでどのくらい汲み取って演奏できるのかというのが、ひとつ模索のしどころです。

顧問前回の演奏のCD を聞いて、全部ピッキングでやればいいのに、と言った人がいたそうですね。

バロックだからその時代はトレモロがないでしょ?と。

監督文献的にはトレモロは残っていないでしょうけど、じゃあ今の古楽器の人たちは、楽譜を大事にして、楽器をできるだけ当時のものを使うようにして、演奏もその時代に即したスタイルを求め、模索し続けていますが、文献に書かれていないことはやっていないか、といったら、やってるんですよ。文献に書かれていることだけでは足りないんです。作品の音楽的なニュアンスとか構造をより良い形で明らかにするためには、文献に書かれていない奏法上の工夫は必要なんです。演奏とは、作品を生かすために行うもので、この作品を生かすためにはトレモロがいいかな、と判断した場合はトレモロ奏法を選ぶことも厭いません。たしかにトレモロ奏法はなかったとは思いますが、音楽ファーストと、一応言わせておいてください。

 

顧問F.J. ハイドン(1732 1809)の交響曲26 番ニ短調。この26 番というのは、比較的初期の作品ですよね。珍しい短調の曲ですが、これを選んだ理由は?

監督マンドリンアンサンブルでハイドンのシンフォニーを全楽章やるのが夢だったんです。うちのアンサンブルは編成が小さいので、まず打楽器が入っているものはできない。それで、できそうな曲が26 番だったんです。

顧問この曲、副題がついてますね。ラメンテーション。哀歌ですね。この副題の意味はどこに表れているんですか?

監督ラメンテーション。ラテン語でラメンタツィオーネ(Lamentatione) ですが、これはハイドン自身によるものではなく、第2 楽章で使われている「インチピト・ラメンタチオ(Incipit lamentatio)哀歌が始まる」というグレゴリオ聖歌にちなんで、誰かがつけたもののようです。哀歌は「エレミアの哀歌」のことです。原曲では、オーボエと第2 ヴァイオリン、後半でホルンのメロディーに出てきます。今回の編曲では、セカンド・マンドリンとギターが演奏しています。

顧問1 楽章には出てこないんですか?

監督1 楽章でも、キリストの受難を歌うグレゴリオ聖歌が第2 主題に使われています。両楽章ともバロック期のコラール前奏曲の書法と、新しいソナタ形式を融合させて書かれています。ハイドンに敬意を表して、一応驚きましょう!(笑)

顧問なるほど!当時としては新しい試みだったんですね。普通、交響曲といえば、最終楽章はプレストで速いものが多いけど、この26 番は速い楽章がなくて、メヌエットで終わっていますね。

監督そうなんです。終楽章が欠損しているのではないかという意見もありますが、メヌエットで曲を閉じることは、数は少ないかもしれませんが、決して特別なことではありません。交響曲をメヌエットで締めくくったのは、ハイドンの創意だと受け止めています。

顧問そういえばハイドンの番号付き交響曲104 曲のうち、短調の曲は8 曲だけで、この26 番は最初の短調の曲ですよね。疾風怒濤期(1765 1773 あたり)と呼ばれる創作期には、短調の曲が多かったり、ソナタ形式、交響曲の可能性をさぐっているような、模索するハイドンの姿が見えますね。

監督そうですね。今回、基にしたランドン版には、ca.1768 と書かれていますので、ハイドン36歳頃の作品ということになります。この曲は、あまり演奏されませんが、全楽章にハイドンの発意と冴えを感じさせる、魅力的な交響曲です。対位法を使ったメヌエットも、工夫を凝らした大変充実した楽章になっています。マンドリンアンサンブルでの演奏はおそらく世界初の試みでしょう。うまくいくといいのですが・・・。

顧問ハイドンの時代にマンドリンのための作品はあったんですか?

監督書かれていました。J.N. フンメル(1778 1837)、L.v. ベートーベン(1770 1827)も作品を残しています。今の人がマンドリンに抱くイメージはどんなものかわかりませんが、バロックから古典期には、普通にクラシックの一楽器だったということです。

 

顧問:忘れ去られし夢L. アンダーソン(1908 1975)。アメリカの作曲家ですね。

監督はい。今までアメリカ人の作曲家の曲をやったことがなかったので取り上げました。この曲、個人的に好きな曲なんです。スコア見たらできそうだったのでアレンジしました。

顧問とても美しいメロディーの曲ですね。最初と最後がピアノで、アンダーソン自身がピアノを弾きながら指揮をしている音源もありますね。この英語のタイトルを見ると、夢は複数形なんですよね。一つの夢じゃないってことかな?

 

顧問:ハイドンのセレナーデは、弦楽四重奏曲第17 番ヘ長調の第2 楽章ですが、本当はハイドンではなくて、ホフシュテッターの作品なんですよね。

監督そうなんです。R. ホフシュテッター(1742 1815)はオーストリアのアマチュア作曲家で、ハイドンの信奉者でした。ハイドンの音楽様式に倣って作曲したものが、ハイドンの作品として残ってしまったんです。出版社もハイドンの名前で出すと売れたんでしょう。でも、ばれたらとたんに演奏されなくなって、冷たいもんですね。セレナーデも俗称で、アンダンテ・カンタービレが原曲の指示です。

今回はハイドンのシンフォニーを取り上げたので、偽ハイドンもいっしょに並べてみました。2 曲を続けられなかったのは、ギターの調弦の都合です。楽譜にcon sordino(弱音器をつけて)という指示があるので、今回、マンドリンは秘密兵器を使って演奏するかも(笑)。ご注目ください。

 

顧問最後の曲はP. マスカーニ(1863 1945)のカヴァレリア・ルスティカーナの間奏曲ですね。

これ、オペラのストーリーとは全然雰囲気が違いますよね。かなりえげつないストーリーだけど、音楽はすごく美しくて、このギャップがすごいですよね(笑)。

監督この曲は、プリマヴェーラ結成当初からのみんなのリクエストだったんです。アレンジする時に、ハープのパートをギターに置き換えるのに苦労しました。有名な曲なのでイメージが定着していて、マンドリンで演奏した時にしっくりとイメージと重ならなければ違和感を感じることになるし。ギターにかなり無理をかけたので演奏が実現しましたけど、調弦が5 弦がG(ソ)、6 弦がC(ド)という超変則調弦になりました。

顧問本来は5 A(ラ)、6 E(ミ)ですよね。弾くの大変そうですね。こういう変則調弦はギターでは普通なんですか?

監督マンドリンアンサンブルではほとんどないでしょうね(笑)。ソロでも珍しい調弦です。曲を生かすために妥協したくないので、こんなふうになったんです。たとえばバッハのエール(G 線上のアリア)なども、ギターの普通の調弦では出ない音があるので6 弦をドまで下げないとだめなんですよ。でも多くの団体は音を部分的に1 オクターヴ上げたり、適当に変えるんです。あの大バッハが神経を使って完璧に書いた音型がずたずたになるんですよ。そんなことになるくらいなら、この曲に関しては、やらない方がいいんです。

顧問バッハの管弦楽組曲エールではなく、「G 線上のアリア」として、通奏低音を気にせずメロディーラインだけを重要視しているということですね。

監督マンドリンアンサンブルの楽譜はかなり問題があります。古いオリジナル曲のギターパートはみんなおかしいです。作曲家ならやるはずもないような声部進行が平気で書かれています。同じ曲で伴奏がピアノとかハープのために書かれたヴァージョンは、さすが作曲家というきちんとした声部書方で書かれているのに、ギターパートはとても同じ作曲家が作ったとは思えない。だから、作曲家がギターパートを作っていないんじゃないのか?というのが僕がオリジナル曲を今まで見てきた感想です。たとえばウィーンでギターが流行っていた時代に、シューベルトの新作リートが、ギターと歌、ピアノと歌の両方の伴奏譜で発売されたりしてるんです。その時にギターの楽譜は出版社(A. ディアベリ)が作っていた、ということもあります。でも、まっとうな楽譜に仕上げてますよ。マンドリンのオリジナル曲に、セロ、コントラバスも加えて演奏するなら、あの時代のヨーロッパの音楽スタイルに精通した作曲家に、もう一度バスラインだけでも見直してもらった方がいいと思います。マンドリンに、ソロ、アンサンブル共にオリジナル曲があるというのは素晴らしいことだし、文化遺産ですから、きちんとした形で残してほしいですね。新バッハ全集とまではいかなくても、ヨーロッパでのきちんとした調査、研究が行われることが必要です。

顧問あくまでも音楽ファースト、作品ファーストということですね。何を基準に上手な演奏とするかは、聴衆の皆さんにゆだねるしかありませんが、私たちの演奏から、音楽ファーストで模索したところを、少しでも感じていただけたら嬉しいですね。

 

(終わり)